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「源義経黄金伝説」 飛鳥京香・山田企画事務所           (山田企画事務所)

義経黄金伝説■第21回■

■義経黄金伝説■第21回■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/

第4章■■ 一一八六年(文治2年) 平泉
■■第4章3 一一八六年 平泉黄金都市
 秀衡の政庁である伽羅御所で、宴が開かれていた。
 秀衡が上機嫌で、招かれた西行に挨拶する。
「西行殿、今日はよう来てくだされた。お知り合いを紹介しょう」
 「この西行の知り合いですと、はて」
 秀衡はほほえみながら
 「これへ、、」
 小柄な優男が、障子の向こうから現れて、西行に深々と頭をさげる。
「西行様、義経でございます」
「おお、これは……もうやはり平泉に着いておられたか」
 西行、身繕いを正す。
「それでは、私はあちらへ……ゆるゆるとお話下され」
秀衡は気を使い、二人っきりにしてくれた。

西行は義経に深々と頭をさげた。
「私が西行、歌詠みの僧です」
「西行様、ありがとうございます」
 義経が、逆に西行に対してまた深く頭を下げる。
「これこれどうなされた。源氏の武者が、歌詠みの老人に頭を下げるとは
めんような」
「いえいえ西行様、お隠しありますな」
「これは何をおっしやる」

西行が名乗りをあげるのは、この時が始めてである。それ以外は、鬼一眼が義経牛若丸の相手をしている。正式な紹介は今までなかったのだ。
「昔、私が鞍馬に引き取られたのも、西行様のお働きがあったと聞いております。また商人金売り吉次殿が、この平泉に私を連れて来てくれたのも、西行様のお口添えと聞いております」
「はて、またおかしなことを申される。私は単なる歌詠み。それほどの力は持っておりませぬ」
「いえいえ、お隠しあるな。私の供者、弁慶が知識の糸は、日本全国に散らばる山伏の知識糸でございます。この世の動き、知識は、世にある山伏の、すべて口から口へと伝えられております。西行様、お礼を申し上げます。この平泉で秀衡様に我が子のように可愛がられたのも、西行様の口き
きのお陰。いや、またこの私が、平家を壇の浦で滅ぼすことができたのも、十五才の折りよりこの平泉王国や外国で学びました戦術のお陰でございます。すべては西行様の縁(えにし)から始まっております」
 義経はふと、十五年前の京都の鞍馬山、僧正ケ谷を思い起こしていた。
 西行はこの後、秀衡の政庁である伽羅御所の北に離れている義経の高館へ招待されていた。
 自分の屋敷で、うって変わって弱きになる。
「のう、西行殿、私はだれのために戦うてきたのでござるのか」
義経は。急に気弱になって父親に話すがごこくである。
「何をおっしゃる。今、日本で天下無双の武者であられる義経殿が、何をお気の弱いことをおっしゃられる」
「が、西行殿」
義経の顔がこわばっている。ある思いでが義経の精神的外傷(トラウマ)としていつも義経の心にある。
「私の最初の……父親の膝の記憶は、何と清盛殿なのです。母、常盤が清盛の囲い者であったからのう。養父の大蔵卿長成殿の記憶は、あまりないのです」
「……」
「それに平泉についてからは、秀衡殿の北の方、また外祖父の基成殿の保護をうけました。奥州藤原氏と京都藤原氏との眼に見えぬ縁あるあるいは糸があったのです」
「……」
西行は、ただ聴き入っている。
義経は、自らの心の闇をのぞき、自分の過去半生を知る西行におもいのたけを打ち明けていた。
「考えて見れば、私の一生は、いろいろの人々の糸がもつれ合っております。源氏の糸、京都藤原氏の糸、奥州藤原氏の糸、後白河法皇様の糸、眼に見えぬ平家の糸」義経は少し考えていたのか、しばらくおいて話した
「いま考えれば、平家の糸があればこそ、平家の長者平宗盛殿、平清宗殿を、あの戦いの折り、殺さずにおいたのじゃ。それが一層兄者頼朝を怒らせてしもうたとはのう。何という世の中だ」
義経、溜め息をつく。
「そして、、、最後は西行殿が糸です。西行殿も奥州藤原氏のご縁です。それに加えて、西行の別の糸がございましょう」
「私の別の糸とは」
「山伏が糸。また仏教結縁の糸じゃ。いや山伏の糸といってもいいかもしれませね」西行は義経の顔をみている
「私は、いろいろな糸に搦め捕られて動けませぬ」
義経は、この地で、どうやら鬱状態に入っている。
西行は思う。この和子義経は、ついに安住の地をみつけられなかったか。背景となり保護してくれる土地がなかったのか。私が、この地平泉に、義経殿を送り込んだのも間違いかもしれぬ。その行為は義経殿の悩みを増大させたのかもしれぬ。
「ここ平泉が死に場所かもしれません。が、私は、清衡殿、秀衡殿のように中尊寺の守り神となることはできぬでしょう。私は奥州藤原氏の長者ではないのです」
初代清衡、2代基衡の遺骸は、守り神として、中尊寺黄金堂三味壇の床下に安置されている。
「義経殿は、みづからが、奥州藤原氏になる事をお望みか」
「いや、そうではござらぬ。拙者はやはり源氏の武者、華々しく戦って死にとうござる。が、戦う相手が兄者ではのう」
ためいきをついている。
「迷われておられるか」
西行は、こころの奥深いところから、怒りがわき上がってきた。
「義経殿が迷いが、この平泉仏教王国を滅ぼされるぞ」
この義経の弱気が平和郷を崩壊させる。
「が、この仏教王国も元々は奥州藤原氏が造ったもの。私が、この国の大将軍になるは荷が重うござる」
「しかし秀衡殿のお言葉がござろう」
「その言葉、仕草が重うござる。何せ戦う相手は兄者が軍勢。また相手の武者ばらは、私が一緒に平家を滅ぼした方々。いわば戦友。その方々を相手に戦わねばならぬのじゃ」
 西行は京都の松原橋の事件を思い起こしている。
「義経殿、私はこの平泉王国が好きなのじゃ。この異国の平泉が。この平泉を私が訪れましたのは、二十六才の頃です。それは、それは、このような地が日本にあるとは…、平泉は仏教王国、聖都です。このような平和な美しい都が、末長く続いてほしいのじゃ。この度の、私の平泉訪問の目的も知っておられましょうぞ」
「聞いております。法皇様は、この平泉が鎌倉と事を構えないように、お考えになっておられるとのこと、相違ございませか」
「さようでございます」
「そのために、この義経が邪魔だと」
「そうおっしゃるでしょうな。が、義経殿、秀衡様は別の考えをお持ちじゃ」
「と、いうと」
「義経殿のお命を、平泉の沙金で買おうとなさっておいでじゃ」
「この私の命を、、沙金でと…」
「お怒りあるな。義経殿もご存じでござろう。南都東大寺が平重盛様に先年焼かれてしまいました。その勧進使度僧を重源上人がこの私にお命じになり、この平泉までやって参りました。私西行は平泉への途上、鎌倉へ寄り、頼朝様にも会っております」
「兄者と…」義経、表情が変わる。
「いえいえ、心配なさるな。義経殿の扱いの提案を、秀衡様とあらかじめ書状で取り交わしておりました」
「兄者は何と…」
「義経様も、お聞き及びでしょう。東大寺勧進が、頼朝様は金千両、それに対して秀衡様は何と金五千両。その差四千両。これではあまりに差がつきま
す。それで秀衡様より、内密に頼朝様に金四千両の沙金をお渡しする約束できております。それを東大寺へお送りします」
「つまりは、私の命を、平泉の砂金四千両で買おうとうわけか」
「いえいえ、頼朝様のこと、今は四千両を受け取り、後々様子をお伺いになりますでしょう」
「それが平泉からの物資、必ず鎌倉を通すという約定の本当の目的なのですか」
「さようでございます」

 西行は義経に、東大寺の重源(ちょうげん)から預かったものを渡す時がきたと考えた。
「さあ、義経殿。やっと二人になれたところで、重源殿からの贈り物です」
 西行は義経に竹包みを差し出している。
「これはどうもありがとうございます。さて、これは…」
「まあ、まあ、開けてくだされ。それからお話しいたします」
 西行は、にこりと微笑んだようであった。
「おお、これは、建物の図面ではござりませぬか。これを私のために…」
 義経は子供のように、喜んでいた。
「そのように喜んでくだされるならば、西行いささか恥ずかしく思います。
いやいや無論、私が図を起こしたものではない。ほれ、お主も知ってござろう。重源様の図面なのじゃ」
「おお、あの東大寺を再建されておられる重源様の…」
「よいか、私が直々重源様に頼んだのじゃ」
「一体何故に、このような図面を」
「よいか、義経殿」
 西行は真剣な顔付きとなり、義経の方へ膝からにじり寄った。
「これはあくまでも二人だけの話ですぞ」
 義経は西行のただならぬ気配を感じ、顔色を変えている。
「奥州藤原氏を信じてはならぬ」
「何を仰せられます。あの秀衡殿が…」
「まあ、義経殿。落ち着いて聞きなさい。秀衡殿は別じゃ。和子たちが問題なのじゃ」
「和子たちが一体私に対して企みを持っておられるといわれるのか」
「そうじゃ、義経殿。己が身の上考えて見なされい。いずれの身かわからぬお主を育ててくれ、勉強されてくれたは秀衡殿。が、和子たちはお主のこと、よくは思っていまい。考えてもみなされ。お主がいることで平泉が危険になっておる」
「私にこの平泉から逃れよとおっしゃるのか、西行殿。それはあまりではござらぬか。私と秀衡様のこと、西行殿はよくご存じではないのか」義経は涙を流さんばかりである。
「よいか、義経殿。この地図の通り建物を建てなおされよ。そして密かに北上川の抜け穴を作られよ」
西行は、秀衡を動かし人即に手配をさせていた。
「抜け穴ですと、私は敵に後ろを見せる訳にはいきません」
「万が一のための予防策でございます。そして、この造作にはこの男を当てられよ」
西行は後ろから、人を呼び入れた。人影が急に義経の前に現れている。
「お初にお目にかかります。東大寺闇法師十蔵と申します。重源様から命を受けて、この平泉まで参りました。どうか、この建物の作事の支配方は、私にお任せくださいませ」

西行が一人ごちた。
「不思議な縁でござりました。平清盛殿、と私は北面の武士の同僚でございました。清盛殿は平家の支配を確立し、この私は義経殿をお助けしたのです。治承・文治の源平の争いの中を、私は伊勢に草庵をかまえ、戦いとは無関係に生き残ってこれたのも、秀衡殿のお陰です。食扶持の費用は、秀衡殿にまかなっていただいた」
「西行様にとって、秀衡様はどのようなお方なのですか」
「そうでございますな。あれは私が二九才の折りでござったか。京都で秀衡さまにお会い申した。そのおうた折り、佐藤家の夢を与えて下さったのです」
「夢ですとと」
「そうです、京の戦いにもかかわらず、奥州には、この平泉のような仏教の平和郷、極楽郷があるという夢です。私が昔、この平泉を訪れた時の思い出は、、この戦乱の世に、いつも、目に焼き付いていて慰めとなるは、この束稲山の桜の姿なのです。あれが、この世にあっては、何か平和の証しのように私には見えたのです」
「西行様は、桜の花がそれのどまでにお好きなのか」
義経がたづねる。
「私は、月と花をよく謡います。日本のしきしま道の根本なのです。
が、この何年か身近に人の死をみすぎました。その京の地に比べ、この奥州平泉の地、なんと静かなことよ。100年の平和、その時期をお作りななれた奥州藤原氏の見事さよ」
義経が深くためいきをつく。
「西行様は、秀衡さまと御同族と聞いております」
「さようでございます」
「では、藤原秀郷様の子孫ですか」
「そうです」
「兄上が西行さまに在られてごきげんはいかでございましたか」
「銀の猫をいただき歓待させました」
「藤原藤原秀郷の子孫、西行どのが、坂東新王、頼朝殿を、つまり新しい反乱王将門(まさかど)をとどめるわけですか」
「私にとってもこの地は安住の地、が、この私の存在が、この平泉の地を、地獄に変えるかもしれぬ」(続く)
(続く)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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